20代夫婦が京丹後へ移住〜僕らが移住した理由・移住して思うこと〜
「京丹後に移住することにした」
2017年1月、友人カップルが結婚を機に京都の北端・京丹後へ移住を決めた。
日本海側にあり、京都市内へ出るより、城崎温泉や福井県に行く方が近い京丹後市。
これまで大阪市内で暮らし、ともにIT系の企業に勤めていた彼らがどうして移住することにしたのか?
私がこれまでに聞いたことがなかった、〝20代で移住〟を決めた2人に話を聞いた。
井上健吾(いのうえけんご):1990年、茨城県鹿嶋市生まれ。京都市内の大学を卒業後、新卒でシナジーマーケティングへ就職し、法人営業を主として3年半勤務。シナジーマーケティングを退職後、3か月間招徳酒造へ日本酒づくりを学びにいった後に、現在の梅本農場で働く。梅本農場では年間100~150種類の野菜を無農薬/無化学肥料で作っており、生産から出荷までの業務と栽培技術や自然循環型の農業を日々勉強している。
井上絵磨(いのうええま):1989年、山口県下関市生まれ。大阪府内の大学を卒業後、新卒でディップ株式会社へ入社し、人材紹介業に携わる。同社退社後、株式会社システナに入社し、エンジニアとして4年間勤務。2017年1月に大阪から京丹後へ移住し、現在は京丹後市内の まちづくり協働支援チームMOPPEN のスタッフとして、地域活性化のための企画等に携わっている。他に、個人でWebサイト制作などの仕事を受けている。
ー1月に移住してもう5ヶ月ほどが経つけれど、こっちでの暮らしはどうですか?
えま:雪が多く降った冬も終わって、お互い仕事と生活のペースも掴めてきて、快適に暮らしてるよ。
けんご:全然ストレス無く暮らすことができてるね。
ーそもそも、なぜ移住?
えま:最初から移住するつもりだったわけじゃないんだよね。はじまりは、おととし、付き合って半年くらいが経った頃に行った長野旅行で、けんごが言ったあの一言。
けんご:「俺、寿司握ろうかな」ってやつか(笑)長野の居酒屋で飲みながらふと話したやつ。
ー寿司!?(笑)
けんご:当時は営業として数字を追いかける毎日だったんだけど、あまりやりがいが感じられなくて。えまとは既に同棲状態だったから、2人で過ごす休日とか仕事終わりの飲みの予定だけを楽しみに過ごしてる自分がいたんだよね。そんな自分がなんか嫌で。自分の手で作ったものなら、もっと愛着を持って売ったり接したりすることができるのかもしれないと思ってた。そんなときに「週末すしスクール」の情報を見たんだよね。寿司職人の養成学校なんだけど。料理はずっと好きだったし、こういうのいいなあって思った。
えま:「いずれそういう学校に通うかもしれない」って言われて、はじめは「えー!!まじかー!!寿司、好きだけど、まじかー!!」って思った(笑)でも、こんな話聞くの始めてだったから、これをきっかけに将来の話とか理想の暮らしについて2人で考えたり話したりするようになったんだよね。
けんご:そのときは移住なんて頭に無かったから、週末の過ごし方を少しずつ変えてみようかなくらいにしか思ってなかったけど。
えま:旅行で行った長野は、自然豊かでお水もお野菜もお酒も美味しくて、のんびりしてて、こういう場所で暮らすっていいなあとは思ったかな。
えま:旅行が終わって帰ってきてからは、お互いに忙しい日々が続いたんだよね。一人暮らしのときは適当に作って適当に食べてたけど、2人で住むようになって、手作りのごはんを一緒に食べる時間っていいなあってすごく感じてた。けれど、その時間がなかなか持てないくらい、お互い忙しくなっていっちゃって。
けんご:ちょうどその頃、俺が隔週で福岡へ出張することが決まって、この生活が続くと2人でごはんを食べられる時間がすごく減っちゃうなと思った。
えま:一緒にごはんを食べるってささいなことだし特別なことじゃないのに、それさえも叶えるのが難しい状況にもどかしさを感じてて。この時間を大事にするためには生活を変える必要があるんじゃないのかな、その一つの選択肢に移住があるんじゃないかなってぼんやり考えるようになっていったんだよね。
けんご:そうそう。それで、たまたまFacebookページをフォローしてた京都移住計画の相談窓口が大阪でも開かれてるって知って、とりあえず情報だけもらってこようかって、すごく軽いノリで行ってみた。
えま:移住するとしても、友達が多く住んでる関西内がいいなあとはなんとなく思ってたから行ってみたんだけど、本当にそのときは具体的には考えてなくて、相談した後に記入したアンケートにも「2〜3年後に移住を検討」って項目にチェックを入れた。まさか1年後に移住することになるとは思ってもみなかったよね(笑)
けんご:うん(笑)とりあえず1年くらいはいろんな情報を集めてみてそれから考えようって思ってた。
ーそこから、どうやって具体的な移住を考えるようになったの?
えま:年が明けて2016年に入ってから、京都移住計画の方に「一度行ってみませんか?」ってお誘いされて、いろんな地域を訪ねてみたね。どこも景色が綺麗で水も美味しくて、理想としてる環境はあったんだけど、これといった決め手がなくて、具体的に移住をイメージすることはできなかった。たとえば、補助金が充実してる場所もあったし、そういったことも大事な要素の一つには違わないけど、「これがあるからそこに移住しよう」とはならないんだよね。そんなときに足を運んだ移住フェアのイベントで、京丹後市に移住した方のお話を聞く機会があって。「週末はどう過ごされてますか?」って質問したら、「めっちゃ飲み会してる!(笑)週末の方がイベントや飲み会で忙しくて充実してるよ!」って答えが返ってきて、もうなんか、田舎のイメージを覆された(笑)
けんご:俺らと同じようにイベントに参加してた人に、「この日空いてない?たくさんブリを食べられるパーティー開くからおいでよ!」って誘ってる人もいて、「こんなノリなの!?」って驚いたよね(笑)
えま:そのうち、私たちも「飲み会するからおいでよ」って誘われて(笑)、1月に初めて京丹後に行った。
ー京丹後ではどんなことをしたの?
えま:移住支援員の方が、京丹後に移住してきた方や地元の方を誘ってくれて、飲みながらいろいろお話させてもらったんだけど、それがとても楽しくて。意外と近い年代の方が多くて、「移住して友達できるかな?」「寂しくないかな?」ってどこか不安に感じてたことが吹っ飛んでいっちゃった(笑)
けんご:これまでは行政の方に地域を案内してもらって、制度の説明を受けて、、、みたいなことも多かったから、地域の人と交流できたことがすごく嬉しかったんだよね。それで、自分たちがここで生活するイメージが少し湧いた。
えま:飲み会の翌日、「せっかくだから農業体験していかない?」って連れて行ってもらったのが、今けんごが働いている梅本農場。ここでガッツリ心を掴まれた。
けんご:3年や5年の長い時間を掛けて立派な土を育てて、美味しいオーガニックの野菜を作っている梅本さんの考え方がすごく心に響いた。効率重視の働き方を要求されている日々と真逆の考え方というか、遠回りをすることがときにいいものを作るための一番の近道になることを教えてくれた。俺らも、そのとき働きながら感じていた疑問点とかをいろいろ梅本さんに話したんだけど、そしたら「今、この若さで違和感を持つことができてよかったね。」って声を掛けられて、涙腺が崩壊した(笑)
えま:わかってもらえた、認めてもらえたって思って。それがうれしくて、2人とも泣きながら車で大阪へ帰ったよね。けんご、涙で前が見えなくて運転が大変だったけど(笑)
けんご:若いうちは都会で働き続けることが正義ってイメージが世間一般的にあるから、移住することに対してどこか不安だったんだと思う。でも、そんな不安な気持ちを梅本さんに包み込んでもらえて自信を持てたし、自分たちの考えてることが間違いじゃないんだなって思えた。梅本さんの話しを聞いて、移住しようって心が決まったんだよね。
えま:うん。でも、勢いだけで行って失敗したくないとは思ってたから、もっと京丹後のことを知ろうとそれから月1のペースで通うようになった。京丹後ではたくさんイベントが開かれてるから、ボランティアスタッフとしてお手伝いしたり、飲み会に混ぜてもらったりしながら、とにかくいろんな人に会って、いろんな話を聞いて。毎回、梅本農場にも足を運んでた。
けんご:通えば通うほど「京丹後に住みたい!」って思いは強くなっていって、最初は7月頃から移住しようかなと思ってたよね。
えま:そうそう。ただ、移住するとなると「=結婚」になるわけで。身内で式は挙げたいって思いがあったのと、移住して数ヶ月間は生活が安定しないかもしれないから、その間の貯金はしておかないとねってことで、結局2017年から京丹後に行こうって決めた。
けんご:それで、えまは前職で年末まで働く一方で、俺は9月に会社を辞めて、そこから酒蔵で働くことにした。
えま:けんごが好きな「招徳」ってお酒を作ってる京都・伏見の酒蔵で、10月から短期のアルバイトを募集してたんだよね。見つけたときは、「けんごにぴったりの仕事!」って思った(笑)京丹後に行ってから、けんごが梅本農場で働くこともそのときには決まってたから、ものづくりをする意味では近い仕事じゃないかなと思って。
けんご:京丹後に来る前に招徳で働くことができたのはほんとに大きかったなあ。自分が好きなものを作る仕事はすごく楽しかった。チームメンバーみんなでいいものを作るために団結する感じがすごくよかったんだよね。農場に来る前に体力も付けられたし(笑)
ーえまさんは京丹後に移住してから仕事を探したんだよね?
えま:そうそう。私も梅本農場に惹かれたんだけど、けんごが農場で働くから、私は違う仕事をして別の知識やスキルを身に付けた方が、将来2人でできることの幅が広がるかなって思って。あとは、そもそも生活を変えたいと思って移住するんだから、まずは生活基盤をちゃんと整えてから働きたいなと思った。だから、移住してきて1ヶ月くらいは、引っ越しの荷解きをしたり、家事をしたり、近所の主婦の方が開いてるパン教室やお菓子作り教室に参加して地域や人との繋がりを作りながら、ゆったり過ごしてた。
ー仕事が見つかるか不安はなかった?
えま:移住前に京丹後へ通ってるときから、大工の見習いだったり魚屋さんだったりといろんなお仕事のお誘いをもらってたから、不安はなかったかな。むしろ、人と人との繋がりでお仕事を紹介してもらえるからこそ、どんな人が働いてる場所なのかを自分の目で見てから決めようと思ってた。だから、焦って決めなくてよかったかな。
ー京丹後に移住してきて、ギャップってあった?
けんご:移住前に月1で通ってたこともあって、大きなギャップは無かったね。
えま:想像以上に雪が降ったことくらいかな。今年は例年以上に雪が多かったみたい。でも、大阪にいたときは季節を感じることがあまりなくて、気付いたら1年が終わっていたから、自然に振り回されることさえも楽しかった。雪がひどい日は、外に出られない分、味噌を作ったり漬け物を漬けたりして過ごすんだよね。そうういう生活が新鮮で楽しかったなあ。
けんご:近くに温泉がたくさんあるから、寒い日ほど温泉に行って温まることが楽しみになるしね。あとは、やっぱり近所付き合いとかが濃いかなあ。採れた野菜や作ったカレーを持っていくと、お返しに何かをいただいたりして、それが日常。
えま:ギャップというか驚いたことは、やりたいことがすごいスピードで叶うこと。けんごはカレー作りが好きだから、「いつかイベントとかでカレーを振る舞えたらいいね」って言ってたんだけど、移住して3ヶ月で叶った。
けんご:リノベーションした空き家でカレーを振る舞う機会をもらったんだよね。「まほロバ」で日替わり店長をしてた話をしたら「ぜひやってよ!」って言われて(笑)当日も、早い段階で完売になるくらい、予想以上に多くの人に食べに来てもらえて、すごく嬉しかったなあ。
ー20代で移住をするって人、まだまだそんなに多くないかなって思うんだけど、移住するって決めたときに、周りの反応はどうだった?
えま:応援してくれる人が多かったかな。年上の先輩からは「そういう生活は憧れだったから羨ましいな」って言われたり。
けんご:身近な人や、俺のことをよく知ってくれてる人ほど「合ってそうだね」って言ってくれたかな。でも、京丹後に移住すると言うと「都会に疲れたから田舎に移住するんだ」って捉えられることが結構多かった。そういうわけではないんだけどね。移住するっていうとスローライフを送るイメージがあるかもしれないけど、実際は京丹後に来てからの方が仕事にイベントに地域行事の手伝いに飲み会にと日々忙しいし(笑)
えま:「もう少し後でもいいんじゃないの?」「なんで今なの?」って言われることはあったね。でも、今だから行きたいんだよね。体力のある今だからこそ、京丹後でやれることがたくさんあると思うから。私たちのやりたいことが京丹後にあっただけで、考え方としては、夢を追ってチャンスを求めて東京に行く人と変わらないと思うな。
ー今後京丹後で挑戦したいことは?
けんご:こっちに来て数ヶ月間、いろんな人とつながりを作ったりイベントに参加したりしてたけど、結局は農場での今の仕事をもっともっと頑張りたいって思いに着地した。野菜づくりは、奥が深くてすごく楽しいんだよね。まずはがっつり農業を学びたいかな。
えま:今、けんごと私は別々の仕事をしているけれど、それが将来交わっていけばいいなって思う。でもさっそく、私が手掛けるプロジェクトの食の部分でけんごに協力してもらう機会が生まれそうで、なんだかすぐに実現しそう。
けんご:やりたいことが叶うスピードが3倍くらい早い印象があるよね、こっちは(笑)
えま:うん。人と人との距離が近いからこそだよね。「やりたい」って言うと、「いいね、やろうよ!」「今度こんな機会があるよ」ってみんなが言ってくれるから。でも、やりたいと思うことが1つ叶ったら、またどんどん次のやりたいことが出てくるんだろうなって思う。
ー最後に、移住を考える方へメッセージをください!
えま:私たちが移住するときに実際もらったアドバイスでもあるんだけど、移住を考えるなら、まずいろんな土地を見て自分の理想に合う場所を探してほしいな。そして、ここって決めたら、その土地へ何度も通って、いいところも悪いところも知った上で移住するかどうかを決めてほしいって思う。いろんな当番が回ってくるとか、消防団に参加しないといけないとか、地域ならではのルールやしきたりもあるし、移住するってことはそういった役割を引き受けることでもあるから。そういったことを知らずに来ちゃって、ギャップを感じて帰ってしまうのが一番悲しいと思う。移住前に、地元の方やそこへ移住してきた方とつながって、いろんな情報を教えてもらうのが理想かな。
けんご:俺は移住が合っていたけど、合わない人もいる。環境を変えるっていっても、都会で転職する、地方都市でサラリーマンをする、地元にUターンする、海外に行く、とか選択肢は無限にあると思う。その中で何が自分に合うかを知るためには、とにかく情報収集。見て聞いて足を運んで、調べてみる。そうすると、自分に合う環境が徐々にわかってくると思う。あと、決断をするときに、世間体やプライドや周りの目が気になることもあるかもしれないけれど、自分が何を大切にしたいかを一番に考えて選んでほしいな。
■My note
※前置きしておく
今回のMy noteはなんだか長めです。徒然なるままに書いてます(笑)
↓↓↓
最近、大阪に飲み友達がいなくて退屈だ(笑)
その原因(笑)のひとつはきっと、ふたりが移住したからである。
けんちゃんは、前職の同期として出会った。
えまさんは、私が大学1年生のときに参加した梅酒大会のボランティアで出会った。遊ぶようになったのは、3年前くらいからかな。
気が付いたらふたりは付き合ってて(笑)、でもそれもとても自然だった。
それくらい、雰囲気や感性に近いものがあったんだと思う。
彼らと過ごした思い出は尽きない。
たくさん飲んだし、思えば奇妙奇天烈なこともいっぱいした。
日本酒飲み過ぎて酔いつぶれたり、
導入された駅メロを聞くために環状線を一周したり、
中津のディープな町を散策したり、
バンドを組んでライブに出たり、
うちの実家に来てもらってダムではしゃぎ、帰りにB級遊園地に寄ってまたはしゃいだり。
それぞれの「好き」や「面白い」の歯車が、
なんだかうまいことはまって、居心地が良くて、
彼らには楽しい思い出をいっぱい作ってもらった。
そんな彼らが気軽に会えない土地へ行ってしまったのは少し寂しい。
かと思ったけど、実はあんまり寂しさは無い。
ときどき、彼らがすっごく楽しそうに、働き、生活し、笑っている姿をSNSなどで見かけたり、報告してもらえたりするからだ。
5月、このインタビューをする目的も兼ねて京丹後を訪ねた。
優しい海とおいしいごはんと温かい人が集まっている京丹後はふたりそのまんまのような土地で、ふたりはすっかり京丹後の人になっていた。馴染みすぎていた(笑)
連れてってくれた温泉、田植え体験や農業体験、そして振る舞ってくれたご馳走、すべて最高だった。
笑顔で暮らすふたりを見て、とても安心したし嬉しかった。
自分たちの仕事に、生活に、お互いが大切にするものに、若いうちからちゃんと向き合って下した選択。
すごく、ふたりらしいと思った。
「おいしいごはんを食べられること・身の周りの人を幸せにすること」
ふたりは、ずーっと一緒に手を取って、これらを大事にしていくんだと思う。
ふたりが作る輪は、しあわせの輪だ。
元気でね。また遊びに行くね。
また、飲もうね。
カレーとパクチー焼きそばと生春巻き、気に入りすぎたのでまた作ってね(笑)